◆軟弱地盤では25倍の揺れ
海岸低地や緩扇状地といった軟弱層の堆積している地域での被害が多かった阪神・淡路大震災からも分かるように、地盤が軟弱なほど振動が増幅されます。すなわち、ユサユサとたっぷり揺れるのです。
京大の防災研究所が、大震災の直後に設置した強震計で余震を計測したところ、地盤の硬い地域に比べて軟弱地盤では、木造住宅を振動させやすい周波数(2ヘルツ)が25倍にも達したという結果を発表しています。
震度とは実際に人が揺れを感じたり、建物が壊れた状態から判断するものですが、とくに震度7を計測した地域は、この増幅作用によってひときわ揺れたのだと考えられます。木造家屋の倒壊率を見ると、震災の帯の外と内では約4倍の差になっていることから、極言すればこの地域の地盤が25倍も揺れたということが、まんざらいえなくもないのです。地盤が弱い上、よく揺れるとなれば古い木造住宅が倒れるのも当然といえるでしょう。
◆周期と周波数

振り子の重りを手に持って左端から離したときを想像してみてください。振り子が左端から右端へ行って、再び左端に戻ってくる時間を振動の周期といいます。1秒間に同じ状態が繰り返される回数が振動数で、繰り返しの時間、つまり周期が0・5秒であれば、振動数は2であり、2ヘルツという単位で呼びます。また、この振動数のことを周波数とも呼んでいます。
◆軟弱地盤が揺れる理由
地中を伝わる地震波は硬い地盤ほど速く伝わり、軟らかい地盤ほどその速度は遅くなります。この遅いというのは、1周期の間に波の進む距離(波長)が短くなるということ。ひとつの波長に含まれるエネルギーは土の種類によって変わることはないので、硬い地盤から軟らかい地盤に到達した地震波は波長が短くなる分、振幅が増大して、エネルギーを一定に保とうとします。これが、軟弱地盤のよく揺れる理由なのです。
◆建物がもつ固有の周期と共振作用
重量の重いトラックなどが通ると地面が揺れたりします。地面が硬いところでは速いテンポでガタガタ揺れ、軟らかいところではゆったりと揺れます。つまり、地盤の質によって振動の周期(揺れ)が変わり、揺れ方が違ってくるわけです。
そして、その上にのっている建物は地盤から伝わる振動をもろに受けてしまいますが、ここに、さらに建物自体のもつ固有の振動周期が加わると、より大きな揺れとなります
建物は地震と同じように振動体として固有の周期がありますが、橋やビル、住宅など、すべての建物は材料の密度や全体の重量などによって、それぞれが揺れる周期をもっています。これを固有周期といいます。
この固有周期が地盤の周期に近づいたり、同じ秒数になって重なると、建物の周期(揺れ)が加速され、より大きく揺れるようになります。これを共振と呼びます。たとえば、ブランコにのっている子供の背中を押してやるとき、最も簡単に効果的に押すポイントは、ブランコが反復する寸前です。この時点であれば指1本でもブランコを加速できます。こうした力の相互作用が共振のメカニズムです。周期と周期が一致したとき、お互いの力が助け合って増幅するので、建物が強固に造られていても、それを逡かに上回る力が加えられるのです。地震の周期が建物の周期と一致して共振した場合、揺れは激しさを増し、そして建物の強度の限界を超えたとき、ついに建物は壊れてしまいます。大震災でも多くの木造住宅や鉄筋コンクリート速(RC速)の住宅が倒壊していますが、それらの大部分が軟弱地盤地域にあることから、軟弱地盤による振動の増幅と、建物の共振作用によって、より多くの倒壊が発生したのではないかと考えられます。
◆地盤にも固有の揺れがある
同じ地盤でも場所によって特定の周期で揺れます。これを地盤の固有(卓越)周期といいます。地層の厚さが同じ場合、軟弱な地層ほど振動の周期は長くなり、同じ軟弱な地層の場合では、層の厚さがあるほうが周期は長くなります。ある地点で固有の周期の揺れが最も大きくなることから、これをその地盤の卓越周期と呼んでいます。実際の地盤はある場所の特定の周期だけで揺れるというわけにはいかず、周辺の影響を受けながら揺れます。
過去の例で見てみると、建物と地盤の関係を示すものが数多くあります。
たとえば、関東大震災時の東京では、柔らかい沖積層が堆積した下町では木造住宅の被害が多くなっていますが、硬い土蔵の被害は少なかったようです。これとまったく反対の現象が起きたのが山の手と呼ばれる関東ローム台地です。ここでは木造住宅よりも、むしろ剛構造の土蔵の多くが被害を受けていました。また、京橋・銀座付近の洪積砂層の地域では被害はあまりなかったということです。
ここで起きたことは、地盤の卓越周期と建物の固有周期とが一致した共振現象によるもので、硬い地層のローム台地の周期と土蔵の周期が一致してしまったというわけです。地中を伝わる地震波は硬い地層ほど速く、反対に軟弱な地盤ほど遅く伝わったのです。
◆フォーカシング現象
軟弱地盤の危険性は共振だけではありません。軟弱地盤に伝わる地震波は、軟弱地盤の下にある硬い地層との境界部で複雑に反射し、より大きな揺れとなることがあります。これをフォーカシング現象と言います。
大阪では被害が少なかったとされていますが、道路の陥没や建物の損壊が集中した地域があります。中央区の堺筋です。この堺筋に沿って被害が集中し、南の堺市まで続いていました。これは上町台地という硬い地層とそのすぐ横に走る堺筋との境界で地震波が複雑に屈折し、干渉しあって揺れを増幅したとも考えられています。
前述したように震災後の調査によって地下一キロあまりの深い場所に高さが500メートルはあろうかという反り返った崖(逆断層)があることが確認されており、その食い違いにより地震動か微妙に方向を変えるフォーカシング現象が起きたとする説も有力です。
◆木造住宅の固有周期は0・5秒
建物の周期は、高層ビルで3〜5秒、RC造のアパートで0・24秒という数値もあります。阪神・淡路大震災の余震の分析では卓越周期が0・5秒、すなわち1秒間に波が2つ出る2ヘルツであり、これは木造住宅の卓越周期とほぼ同じです。不運にも神戸では地盤と建物の周期が一致してしまい、17万戸という数の家屋を破壊したもの考えられています。
共振させないためには、建物の卓越周期と振動の周期とを一致、または近づけないようにすることです。
◆地盤を改良して周期を変える
建物と地震の固有局期が何らかのきっかけでズレて、それぞれが別々に揺れると、共振エネルギーは減少します。地盤が硬いところでは、一時的には軟弱地盤よりも大きなエネルギーが働き、建物に亀裂などの損傷を与えるかもしれません。しかし、部分的な損傷によって建物がダメージを受けると、建物の固有周期が伸びてしまい、地盤の周期とズレてしまいます。すると、そのとたんに振動エネルギーは滅少して、害が及ぼなくなるのです。だからといって壊れやすい家を造ることなどできない相談です。やはり、地震に対する防衛は地盤を硬くすることが最善の方法だということです。